Emonda SLR 異次元のハイパフォーマンス! Emonda SLとの違いも

2021年10月30日

ハイエンドはレース向きのバイク。それは時に正解であり、時には不正解だ。一般人の僕が乗るとフラッグシップのÉmonda SLRはどういった反応を見せてくれるのだろうか。

エモンダSLR9Etap P1の画像

いつもÉmonda SL5 Discに乗って走り回っている樋口です。この度"OCLV800 カーボン"を使用した最上位グレードであるEmonda SLRを試乗する機会を頂きました!今回は日頃OCLV500のSLグレードに乗っている自分目線で感じ取れた点について比べていきます。

最上位グレード 「SLR」

OCLV800カーボンのロゴアップ画像です

 OCLV800カーボンを採用したÉmonda SLR

スペック

今作のエモンダは、SL/SLRどちらも全く同じ型で作られています。SLでもエアロ性能や再現可能なポジションはトップレースで使われているSLRと同じで、美しさもグレードを問わないということです。名前の意味ですが「SL5」や「SL6」に記載されているアルファベットは" フレームのグレード "を表しており、数字は搭載されている" コンポーネントパーツ "を表しています。「SLR7」「SLR9」に関しても同一です。SLはスーパーライト、SLRはスーパーライトレーシングの略称になっています。

Émonda SL5 Émonda SLR9 Etap
フレーム H1.5 OCLV500 H1.5 OCLV800
コンポーネント(ドライブ) Shimano R8050 Di2 11s SRAM RED eTap AXS 12s
ホイール Bontrager AEOLUS RSL51 28c Bontrager AEOLUS RSL37 25c
ギア構成 F 52-36 R 11-28 11s F 48-35 R 10-33 12s
パワーメーター FC-R9100 Stages Gen3 165mm Red AXS Power Meter 170mm
最大/最小 ギア比 4.73 / 1.29 4.80 / 1.06
ローター F 160 / R140 F160 / R160

まずは細かいスペックの比較から。今回は私物SL5の為、市販構成とは異なるコンポーネントやホイールが搭載されています。電動コンポーネント搭載/RSLホイール装備という条件が揃っているためフレーム要素の比較がしやすいはず。AXSは12sとなっているため最大/最小ギア比共に11sDi2よりも広くカバーされています。12sの恩恵を数字だけでも感じます。あこがれちゃいますね。

フレームの差による走行感の違い

エモンダSLR 6.8kg

52サイズ ペダルレスでの重量は6.8㎏

テストコースは463号線と府中街道をメインに行い、常用コースのアップダウンのある環境でも検証しました(通勤路ベース)。巡行や安定感、登坂アタックなどの観点を見ていきます。

 アイオロス RSLハンドルです

新型エモンダに合わせて設計された「Aeolus RSL VR-C Handlebar 」

SLRに乗った感想

RSL37の軽さも手伝い軽快で初動から巡行に違和感シフトし、30-35㎞/hあたりの巡行を力まずに行えるだけのパワー伝達性があります。軽快な巡行から下ハンドルに持ち替えアタックをかけると、ペダルからのパワー入力にタイムラグなくバイクが反応。滑るような鋭い加速を感じます。一挙一動緻密にバイクが反応するため加速中のライン取りも思うが儘です。車体重量が7.0㎏(ペダル込)と軽量ですが重心位置が低くとられていることもあり、足元が安定しています。そのため機敏にヒラヒラ動きすぎることが無く、まるで手足のように動いてくれます。

高負荷のコーナリングで見ても非常に優秀で、ハンドルに安心して体重をかけることができます。ブレード系のフォークに起こりやすい「コーナリング時に路面の凹凸を拾ってコントロールがブレる」という感覚もありませんでした。大まかな感想は" 硬さとコントロール性が絶妙にチューニングされたバイク "という印象です。各部クローズアップしてみていきます。

エモンダSLRの「硬さ」について

自転車をやっていると「剛性が高い、硬い」というワードを耳にすることがあると思います。そもそも硬いとは何でしょうか?様々な意味合いが含まれており、場面によっても持つ意味が違うと思います。一見すると剛性が高く硬いフレームのほうが速そうに思えますが、本当にそうでしょうか?

それぞれのフィーリングを感じ取るため念密に乗り込む

硬さ

ペダルを足で踏むことをハンマーで杭を打つことに例えることとします。 金属とゴムのハンマーを用いて杭を打ち込む場合、金属のハンマー(硬い)の方がゴムのハンマー(柔らかい)より少ない回数で杭を打ち込めます。これは硬いハンマーのほうが「振った力→凹ませる力」の変換効率が高いことによるものです。やわらかいハンマーの方で同じだけ打ち込もうとすると叩く回数を増やすことになります。これだけ見ると「やはり硬い方がいいのでは」と思われるかもしれません。

では何本も杭を打ち込まなくてはならない(長時間走る)場合はどうでしょうか?ハンマーを握っている手を想像してみてください。硬い方は少ない回数で打つことができます。代わりに叩く度衝撃が手に伝わり、次第に痺れて叩き続けられなくなります。一方で柔らかい方はなりますが、手へ伝わってくる衝撃は少なくなるのでより長くたたき続けられます。

自転車に戻すと「硬い→反応がクイックだが反発が大きい」「柔らかい→反応はスローだが反発が少ない」といえます。これはどちらか一方が優れているという訳ではなく、使い分けが非常に重要になってきます。【室内の滑らかな路面を高速で走る】という環境に最適化されている室内トラック競技のカーボンバイクは、震動減衰能力がロードに比べて優先度が低い為非常に剛性が高く硬いです。

特定の環境で高いパフォーマンスを発揮するバイクはそこに最適化をされているため、環境が変わると途端にパフォーマンスが低下します。先程のカーボンバイクでロードコースを走ると、アスファルトの凹凸や横風、起伏に大きく影響されてしまいます。何でも硬い方が良いわけではない、というお話でした。

ISO Speed非搭載にも拘らず 快適な乗り心地を実現するステー接合部

相容れない二つの要素が共存するバイク 

硬すぎても柔らかすぎても良くないという話をさせて頂きました。「エモンダSLRは硬いのか」という質問に一言で回答するのは困難ですが、あえて言うならば「両方の性質を持ち合わせている」といえます。これは決して中間くらいの剛性感があるといった意味合いではなく、必要な場所に応じてチューニングされているといった塩梅です。

ゴツゴツとした衝撃は来ないものの、狙ったラインはきれいになぞれる。踏んだ力はロスなく伝え反発が少ない。優秀な色が強いバイクです。トレックが誇るOCLVカーボンなら、そんなうまい話があるんです。

特に驚いたのが前後フォークとBB周りでした。特に剛性感のチューニングを重要視するここが、非常に気持ちよくまとめられています。フロントフォークは足先がしっかりしておりまるで手足のように扱えます。ハンドリングも軽快で全く癖がありません。

初めて乗車するバイクは乗り初めのハンドリングに違和感を感じがちですが、まるで自分のバイクに乗っているような感覚で違和感なく乗り始めることが出来ます。直進やコーナーも安定しており、コントロール性に長けます。 

アタックをかけた際にもしっかりと反応してくれる剛性がありながら、振動や衝撃が来ない点はまさに魔法。乗る時間が長くなるほどエモンダの虜になること間違なし。リアステーの剛性も絶妙です。過去のエモンダに見られたしなやかな路面追従性はそのまま、足先の剛性感が上がりきびきびとした加速が得意になっているように感じます。

アスファルトのゴツゴツ感を器用に抑えながら、伝えたいこちらの力はしっかりと伝達。乗り手にやさしく都合の良い作りと言えます。柔らかいともっさり、硬いと跳ねて乗り心地が悪くなってしまう難しい場所ですが、ここも最高の水準です。これが「エモンダSLRの硬さ」か、と感じました。

BB周りはペダリングでヨレず、クランクを回転方向以外には動かさないという凄味があります。まるで岩壁に空いた穴からクランクが生えているかの如くBB周りが撓む様子がありません。これは単にクランクやフレーム強度が高いだけだと到達できない境地で、しっかりとフレーム剛性がチューニングされていることを物語っています。T47大口径スレッドBBもしっかり効いてきています。

ペダルを踏みつけているというより、ボトムブラケット中心の空間に力を加えているようなフィーリングです。チェーンを真っすぐ引っ張れている感覚はよだれが出ます。踏み込みに対しての強い反発もなく足が即売り切れることはありません。硬さと柔らかさを兼ね備えた、乗り手にやさしい魔法のようなレーシングバイクなのです。

T47BBと中空カーボンのクランクアームと大径アルミシャフトが織りなす剛性感は逸品

ホイールをRSL37からRSL51へ交換

軽量で加速や登坂性能に優れるRSL37(以下37)から、エアロダイナミクスと高い安定性を誇る51に履き替えてみたところ、予想以上にバイクの性格が大きく変わりました。RSL51(以下51)を履き、改めて37の良さも感じ取ることが出来ました。

RSL37

51と比べることで、エモンダの加速性の高さは37の影響がかなり大きいことが分かりました。軽量且つエアロダイナミクスに優れたリム形状をしている為スピードの維持もしやすいです。特に巡行中の緩急やインターバルの多いコース、アップダウンを繰り返す環境で生きてきます。ハンドリングも非常に軽快で癖がないため、ロングライドやブルべなどでも使っていけそうです。

RSL37を使用したスタッフのブログはコチラ↓

🔗 ロングライドにぜひおすすめしたい注目カーボンホイール!ボントレガー「アイオロスRSL37」をインプレッション
🔗 若干度を超えたロングライドが好きなスタッフが半年間乗り込んだアイオロスRSL37をインプレ!

苦手な点を強いていうのであれば、35-45㎞あたりの安定した速度維持やスプリント、高速巡行時から更にアタックをかけるような使い方だと思います。ただしこれは51と比較した際の話なので、単体でのパフォーマンスは非常に高いホイールであるといえます。

RSL51

37と比べるとリム高とリム幅が大きく広がります。剛性の高い51㎜のリムはパワーをしっかりと受け止めて進んでくれます。51の一番の持ち味はなんと言っても安定性です。高速高負荷のダウンヒルでもあおられたりブレたりすることなく綺麗にトレースでき、4-60㎞/hの高速巡航でもバランスよく安定して走ることが出来ます。高速巡行中にアタックをかけて逃げ切るような動きを非常に得意としています。クリテリウムレースや幹線道路の走行で生きてくる要素です。

🔗 黄金の回転 AEOLUS RSL51インプレッション!

37比で苦手な点は低速からの加速です。速度が落ちにくいホイールですが、一度失速してしまうと再加速に若干のムラを感じます。とは言えリム剛性が高いのでパワーで乗り切ってしまうといった使い方も出来ます。低速が続く環境(サイクリングやキツいヒルクライム)では、乗り方にもよりますが持ち味を生かしきれないと思います。

回転は無限の力 ホイールは優劣なく用途別に。

流石ボントレガー。うまいことチューニングしてありフレーム、ホイール共に良さを活かしあっています。相性を細かく考える必要なしに、用途別にそれぞれ1セット持っておくのもいいかもしれません。私は『フロント51 リア37』で運用したくなってきました。リアは軽く掛かりがよく、フロントは安定に最大限貢献…夢が広がります。

Emonda SLとEmonda SLRの違い

ここまでSLRの素晴らしい点をいくつも書いてきましたが、SLはどうでしょうか?単に下位互換、兄より優れた弟は存在しないのでしょうか…?

僕は得意とするパワー域が違うのではないだろうかと感じました。SLRが大パワーを無駄なく前に伝えてくれるのに対して、SLは乱雑なペダリングも拾ってくれる懐の広さがあるように感じます。使っているカーボンの等級が違うのはありますが、使うユーザー層を絞ってバイクづくりをしているようです。SLR(スーパーライトレーシング)はその名の通りレースシーンに焦点を当てたハイパフォーマンスバイク、SL(スーパーライト)はサイクリングから市民レースまで幅広い層をターゲットにしたバイクと言えます。

ディスクロードの重量増は悪か?

ディスクブレーキ化したことで車体重量が増加していることに、不満を抱く方は少なからずいらっしゃると思います。軽量至上主義であったロードバイクですので、ごもっともな意見だと思います。あくまで持論にはなりますが、私の考えを少し。ロードバイクは長い歴史の中で大きな転換期に来ています。バイクのパフォーマンスにとどまらず、人間が実際に乗った時の効率化です。

『ディスクブレーキを搭載したことで重量が増えた』のではなく、ディスクブレーキ化したことで『リムブレーキ車故の制限が解消し、各部効率化した結果重量が増えた』と思っています。あくまで効率化が重量増というウィークポイントを大きく凌いでいる、という点が大事です。

クイックシャフトはスルーアクスルとなり、足回りの安定とパワーの伝達性が向上。ワイドなリム幅と大きいタイヤサイズは剛性やエアロダイナミクス、エアボリュームに大きく貢献。ブレーキの干渉を受けることなく、それぞれの環境で最適なタイヤサイズを装備することが出来るようになりました。

これらは乗り手を効率的に動かす上で重要になる、即ち車体のスペックアップのみならず、エンジン側の効率化を見据えた設計が可能になってきているということです。乗った状態でパフォーマンスが出るよう設計されたバイクとバイクパフォーマンスが高い軽量なバイク、果たして実走行下でどちらが優れているでしょうか?私は前者だと思っています。

実走行では重量面だけでなく様々な要素が関係してくるため、重さ一つで良し悪しを語るのは少し違うのではないでしょうか?カタログの重量面だけですと。マイナス要素として重量が悪目立ちしてしまうところではあります。しかし紙面比較ではなく乗ってこそ自転車!ぜひ試乗でご体験ください。ディスクブレーキ車に対しての考え方が少し変わってくるかと思います。

🔗 バイクプラスの試乗サービスについて

今までのエモンダ これからのエモンダ

今までのエモンダはヒルクライムバイクとしての色が濃いものでしたが、今やオールラウンドで勝ちに行けるクライミングバイクといった側面が出てきました。これにより構成一つ変えるだけで様々な用途に、高い水準で対応できるようになっています。私自身はエモンダを通勤からヒルクライムまで幅広く楽しんでいます。より活躍の場が増えたエモンダを、これからのバイクライフにプラスしてみてはいかがでしょうか?ご相談お待ちしております!