
OCLVカーボンフレーム製造工場見学レポート 宇宙航空産業の基準を超える品質
TREKの販売店でも訪れた経験があるひとは少ないTREK OCLVカーボンフレーム製造工場見学レポート(page2/3)。
このページではOCLVカーボンフレームの製造工程、カーボンシート(プリプレグ)から、フレーム成型、ペイントまでトレックのカーボンロードバイクができるまでの一連の過程をレポートします。
本社工場では、世界各国からオーダーされたプロジェクトワンのフレームを製作しています。ひとつひとつの工程は人の手で行われていました。正にhandbuilt in the United States.
TREK OCLVカーボンフレームができるまで
目次
カーボンプリプレグをカッティング
カーボンフレームは、繊維の太さや密度など何種類もあるカーボンシートを適切な方向で適切な枚数重ねて隙間が出来ない様に熱と圧力を加え成形していきます。
カーボンシート(プリプレグ)をカットする前に、最適なカーボンシートを最適な方向に重ねていかなければなりません。その為に、作業台正面にある電光板からはエンジニアからの指示が表示され、作業を行う女性スタッフはその指示を見ながら、順番通りに指定されたカーボンシートを指定された向きに並べていきます。
電光板の指示の他にも、天井から作業台に向かって垂直にレーザービームがあたるようになっていて、レーザービームの示す場所にカーボンシートを置いて重ねていきます。ただ重ねるのではなく、種類・向き・積層数に気を付けて重ねていくようです。
重ねたシートはプログラミングされた機械が素早くカットしていき、異なるモデル、異なるサイズが混ざらない様に、単品ごとに仕分けされバーコードで管理されていきます。
カットされたカーボンシートを金型に敷き詰め加工
カットされたカーボンプリプレグは、エンジニアの設計通りの場所に繊維の向きや重ね順で金型に敷き詰められ、風船を中に入れた後金型を閉じ、加熱圧縮されます。
これぞOCLV製法
この段階でカーボンの積層内に空気が残ってしまうと耐久性が極めて低いフレームになってしまいます。TREKでは、フレームを部位ごとに分けて比較的小さなピース(パイプ)に分けて加熱圧縮するため、低品質のフレームができにくいという特徴があります。これがトレック独自の技術なのです。
トレックが世界に誇るこの技術が『OCLV製法』です。空隙率はなんと1%以下。ちなみに米国航空事業産業の基準は2%。それよりもさらに高い基準をトレックがクリアしているわけは、カーボンの技術のエキスパートが開発に携わっているからなんです。
OCLV製法とは違い、フレームをワンピースモノコックで製造する場合は、空隙率がどうしても高くなってしまいます。そのような製造方法をとる場合、品質を担保するために、積層をあらかじめ厚くしたり(重量増)、空隙ができやすい部位にあらかじめパテを入れ込んだり(重量増・低性能)する必要があるのです。
出来上がったフレームの各部位を接合
エポキシという特殊な接着剤を使用してフレームの各部を接着していきます。この接着剤は、ラグを接合する時に使うものとカーボンシートを接合するのに使うものとで使い分けるようです。接合面の精度が高く紙1枚だって入らない程隙間がありません。
接着剤を塗ったらアライメントが崩れないように素早く正確にはめていきます。ステップジョイントで繋げる場所も強度面で影響のないところを計算されて設計されています。
カーボンパイプを接合した時に接合部分のみ肉厚が分厚くなってしまうことが長年の設計上の課題だったのですが、こうして段々になっているモノ同士を繋げることで、接合部分の肉厚が他の部分と変わらないだけでなく、接合面積も結果として増えるので強度が増すというメリットも同時に実現した画期的な方法です。実はこのステップジョイントと呼ばれる接合方法は宇宙航空産業からも注目されたほどのTREK独自の優れた技術なんです。
OCLV製法産みの親は航空宇宙産業の元エンジニア
カーボンフレームの開発に古くから力を入れているTREK社で、OCLVカーボンと呼ばれる性能も品質も群を抜いたカーボンフレームの製造方法を産み出した中心人物がこのジム・コールグローブ氏。実はその昔カーボンの専門家として航空宇宙産業の分野で戦闘機などの開発にも携わっていた経験があります。
工場を案内してくれたジム・コールグローブ氏に以前他のスタッフがお会いした時には次のようなことも話していました。
どんなに粗悪なカーボン製品でも見た目は高級高品質に見えるから怖い
カーボン製品の良し悪しは製品の外見からは判断しにくい。これはユーザーにとってはとても怖いことだ。カーボン製品は見た目はみんな高級で高品質に見える。品質の良し悪しを判断するにはカーボンの積層を確認しなければならず、それはその製品をカットしなければ確認できないことを意味する。だから購入を考えている製品がどんな工場でどんな作り方で生産されているかを知ることは、購入の良い手助けになる。
カーボン製治具に載せアライメントを正しながら接着
大切なのは、アライメントを崩さないこと。接合した後素早く固定台にセットし、ゆがみやズレがないかアライメントをチェック。どの台を使用して固定されたのか印をつけて加熱されます。
加熱する前に、接合時に使用した余分なエポキシを拭き取ります。この段階で拭き取っておかないと、接合面に硬い塊ができてしましい、ペイント前の研磨作業に時間がかかってしまうそうです。
ペイント前の最終工程 1台2時間かけて行う研磨作業
最後の工程である塗装に入る前に、フレームの研磨を行います。4~5段階のやすりを使い1台磨き上げるのに要する時間は2時間。しかも1台1台全て手作業で行われていました。プロジェクトワンで作るロードバイクには沢山の人の手がかかっていることを改めて実感しました。
プロジェクトワンのように好みのペイントを施すためには、様々な塗料を使うためこの下地作りが非常に重要なポイントになります。BB付近等細かい部分は別室でさらに丁寧に磨かれていきます。
UVコーティングを施して丁寧にペイント
ペイントの前に重要な工程があります。それが、UVカットコーティング処理。UV(紫外線)は、通常カーボンフレームを製造・加工する際にカーボンに浸透させる樹脂(レジンなど)を傷め自然劣化を誘発させてしまいます。なのでコーティング(保護)は必須なのです。
TREKはレジンの使用を必要最小限に抑え、OCLV製法でカーボンを最適に管理・製造。さらにUVコーティング処理を行うことで、他を圧倒的に凌ぐ耐久性があるフレームが完成します。
こちらはプロジェクトワンというカスタムオーダープログラムのペイント風景。一台一台エアブラシで丁寧に塗装されているなんてたまりません。
TREKロゴやモデル名などのデカール貼り
1台1台丁寧にペイントされた後、デカールが貼られていきます。目に止まったのは女性が多いエリアだということ。工場を案内してくれたOCLVの産みの親ジム・コールグローブ氏曰く、女性の方が細やかな作業に向いているからとのことです。これでフレームは完成です。この後にパーツ類がアッセンブルされていきます。
こちらはプロジェクトワンと呼ばれているカスタムオーダープログラムのPVです。工場でフレームが出来上がるまでをカッコよくまとめてあります。
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TREKバイクの開発の裏ではなく表舞台に日本人!
次のページではTREKのエアロとなの付く製品のほとんどに携わっている日本人エンジニアのお話をご紹介します!