前半の基礎知識をもとに、後半戦へ突入します。

変速機の上手な使い方

階段の説明だけでは、ちょっと限界にきていたので、本物の自転車を例に解説を進めます。

トレックのFX3 DISKというクロスバイクを見てみましょう。前は46/30T、後ろは11-36T(11-13-15-17-20-23-26-30-36)の2×9です。最大ギア比は4.18、最小は0.83です。

FX3DISC

通勤、通学に大人気のFX3 DISC

下のグラフは、青い線がアウターリング(前の大ギア)と後ろの各ギアとの組み合わせで得られるギア比、赤い線はインナーリング(前の小ギア)と後ろギアとのギア比を示しています。

青と赤が重なっているところがあるのがお分かりいただけるでしょうか。この部分ではギア比が重複しています。つまり、アウターを使ってもインナーを使っても、ほぼ同じギア比になる組み合わせが存在するということです。階段で言うと、下の絵の2階〜4階部分で、どちらの階段を使っても同じ高さに到達できる状態に相当します。

ここで注目して欲しいのは、両方の階段で地面からの高さが同じになるのは、例えば下の階段の5段目と上の階段の1段目といった具合に、ワンフロア分(階段4段分)のズレがあると言うこと。同じことがFX3 DISCでも起きています。ギア比のグラフの元になった表を見てみましょう。

まったく頭に入ってこないですね。これを、形を変えて階段の例と同じように読み解くと、こうなります。

はじめにワンフロア3段分の差があって2階〜3階部分が重複している5階建(5階には上り階段がないので、上の表は4階までしか書いていません)であることが分かります。重たいギアから軽いギアへ順にシフト(変速)していく場合、例えば上の表の赤字部分のように46x11Tの4.18に始まり、3階の踊り場まで登り切ったところで30x17Tの1.76につなぎ、最終30x36Tの0.83に至る、というやり方が考えられます。実際の変速では、「後ろを大ギアに向かって1段ずつ5回変速した後、前をインナーに落とすと同時に、後ろを2段戻す」という操作になります。ポイントは前を1段変えるときに後ろを2段動かすというところ。この自転車の場合、前1段に対して後ろを3段動かすと元のギア比に戻るので、2段戻せば1段前進したことになります。

軽いギアから重いギアに変速する場合も、同じような考え方で操作することができます。5階から3階まで一気に進み、2階に向かうところでフロントをアウターに上げつつリアを2段軽くします。

ギア比の並びだけを見ると、2階〜3階部分の間であればどこでフロントの変速をしても良いのですが、変速のベストタイミングを決めるにはまだ検討の余地がありそうです。どんなことを考慮に入れるべきなのでしょうか?

効率のよい変速とは?

ギア比の並びにあった、つながりの良い箇所を見極める、というのが変速機の使い方としては肝なのですが、ギア比以外にも気にしておいた方が良い、重要なポイントがいくつかあります。いろんな方向に話が飛びますので、しっかりついてきてください。

ケイデンス

初心者には耳慣れない言葉かもしれませんが、ケイデンスとは1分間あたりのクランクの回転数のことです。運動強度が上がると心拍数や呼吸数は上昇しますが、強度を下げたり、少し休んだりすると短時間で回復させることができますよね。一方、筋肉は大きな負荷をかけると疲労が蓄積し、回復に時間がかかります。心肺への負荷と、筋肉への負荷のバランスがうまく取れると、ある程度高い強度の運動を長時間続けることが可能となりますが、ケイデンスはそのバランスの指標となるんです。個人差はありますが、一般的に平均90回転/分が効率の良いケイデンスだと言われています。左右の足を一回ずつ踏み込むとクランクは1回転しますので、結構早いテンポでクルクル回しているイメージです。状況に応じて60〜120回転/分くらいの振れ幅はあっていいのですが、平均して90前後を目指すと良いでしょう。

状況に合わせて適切なギア比が選べるのが変速機のメリットですが、「適切なギア比」というのが、このケイデンスを一定にできるギア比のことなんです。重すぎるとケイデンスは下がってしまい、軽すぎると足が追いつかないほどケイデンスは上がってしまいますので、これを避けて、90回転/分前後のケイデンスを維持できるようにギアを選ぶと、ちょうどよく上手に変速できているということになります。無理なく毎分90回転できる一番重いギア比が、その時に最適なギア比である、と言い換えることもできます。

自動車やオートバイが好きな方なら、エンジンを壊すことなく、パワーを出しやすい回転域でシフトチェンジするために、タコメーターを見ていると思いますが、自転車の場合はケイデンス機能付きのサイクルコンピュータを使います。距離や速度を知るだけならスマホのアプリもなかなか優秀ですが、上手な変速を覚えたい方は、是非ケイデンスが測定できるサイクルコンピュータを使ってみてください。

ディスプレイ

ケイデンスが測定できるBONTRAGER RIDE TIME ELITE。CADと表示されているのがケイデンスの値

変速の話からは少し外れますが、フィットネスや、ダイエット(減量)の目的でサイクリングをする方も、ケイデンスを意識すると効果的です。適切なケイデンスでペダルを回し続けると、ちょうど良い有酸素運動になるからです。重すぎるギアで脚がパンパンになったり、漫画のように足が見えないほど早いケイデンスでは無酸素域に入ってしまっている可能性が高くなります。また、偏った筋肉しか使えないペダリングでは、すぐに疲れてしまい有酸素運動の効果が得られにくいので、正しいフィッティング(適切な乗車姿勢のためにサドルやハンドルを調整・交換すること)も重要です。

地形と速度変化

なぜ変速するのか?それは地形と速度が変化するから。

いま「そんなの当たり前じゃないか」と思いましたね。でも、意外に多くの人が、地形と速度が変化したから変速しているんです。登りがしんどくなったからギアを軽くする、速度が上がって足が追いつかなくなったからギアを重くする、といった具合に。本当は、今「スピードが上がっている or 下がっている or 巡航している」ということと「地形が平坦 or 傾斜がきつくなっている or 緩くなっている」ということを総合的に判断する必要があるんです。上手な人ほどこまめに変速しているものですが、それはこの状況判断が上手だからだと言えます。

一定のケイデンスで平坦路を巡航している状態を想像し、今のギア比を基準にイメージしましょう。そこに登り傾斜が迫っていれば、速度は低下しますので、一定のケイデンスを維持するにはギア比を軽くしなければいけません。問題は、いつその変速をするのかということ。よく「早めの変速を心がけましょう」とは言いますが、早過ぎれば坂の手前で失速してしまい、せっかくの勢いを活かせません。きつくなってからでは筋肉への負荷が大きくなり、回復に時間がかかるため、ギアを軽くしても楽にならなくて、必要以上に速度を落としてしまう原因となります。これらの間にあるちょうど良いところを予測して、変速に備えておく、というのが曖昧ですが正解です。

ダンシング

ダンシングの時は1〜2段重くすると良い

登りがつらくなってくると、ギアを軽くすることだけに意識が向きがちですが、勢いをなるべく保ったまま走るというのも大事なポイントです。斜度が増すような傾斜の変化がある場合、ギアを軽くするだけが正解とは限りません。一時的な斜度の変化(登りの途中にある左ヘアピンカーブなど)の場合は、ギアを軽くせずにダンシング(立ち漕ぎ)を入れることで速度低下を防ぎます(もちろん、斜度変化を小さくするために大回りするなど、ライン取りも重要です)。

斜度の変化を乗り切るためではなく、積極的に加速する場合や、使う筋肉を変えたい場合に使うダンシングの時は、ギアを1〜2段重くしながら立ち上がると良いでしょう。軽いままダンシングに移行した時のスカッと抜ける感じは、却って疲れてしまいますよ。

変速ショック

変速ポイント

大ギアの表面に刻まれた凹凸がチェーンの通り道

カセットスプロケットやチェーンリングの表面や歯先には、変速ポイントと呼ばれる、チェーンの通り道が作られています。チェーンが移動し、次のギアに乗り移る時、設計意図通りの変速ポイントを通過すれば、チェーンは暴れる事なくスムーズに変速を完了します。ところが、強引な変速や斜めがけからの変速では、変速ポイントを外れて落ちるように変速することがあり、ガチャンという音と共に、足にもギア比の差以上の衝撃がきます。変速ショックというこの現象は、繰り返し発生したり、高負荷で頑張っているときに起きると、疲労(肉体的にも精神的にも)につながります。

上位グレードのコンポーネントほど、この変速ショックも小さくなるように設計されていますが、それでも一気にチェーンを弛ませるような操作をすれば発生しますし、ギリギリまで粘って限界からの変速では、負荷の変化だけでもどっと疲れます。早めの丁寧な変速を心がけましょう。

タイムラグ

リアの変速は軽くするのも重くするのも素早く、負荷がかかっていてもちゃんと変わってくれますが、フロントは1段変えると、同時にリアを2〜3段変えなくてはならないので、瞬時にギア比を合わせるのが難しくなります。また、フロントは歯数差が大きい=直径の差が大きいため、チェーンの物理的な移動距離が長く、反応自体も遅くなりがちです。実は、反応が遅くなるのは、チェーンの張りにフロントディレーラーが負けるからなんです。自転車を真横から見ると、リアディレーラーは後ろギアの下にあるのに、フロントディレーラーはギアの上についていることに気が付きますよね。ペダルを踏み込むと体重の何倍もの力がチェーンを介して後輪に伝えられますが、そのときにチェーンは張力によって1本の鉄の棒のように硬くなっています。それをあのペラペラな金属片であるフロントディレーラーでチョイと横から押して脱線させるのですから、多少は押し戻されてしまうわけです。渾身の力で踏み込んでいるときにフロントの変速がもたついたり、変速しなかったりするのはこんなことが起きているからなんです。上手な人は、一瞬、踏み込む力を抜いて変速しますが、これってまだ余裕があるタイミングじゃないと無理ですよね。

変速の複雑な操作が完了するまでのタイムラグ、ディレーラーのもたつきからくるタイムラグや、それを避けるための一瞬の抜重によるタイムラグなどを見越して、勢いを殺さずに変速するには、ギリギリのタイミングでは間に合いません。すると、先の地形を見て、自分の体力的な状態も鑑みながら、今よりどのくらい軽いギアが必要になるのかを予測することが必要になります。今より傾斜がきつくなったり、今のテンポを維持できないほど長く続く登りなら、勢いと余力のあるうちにフロントを変速しましょう。その際は、元のギア比になるように後ろを変速すると失速を防げます(FX3 DISCの例なら3段変える)。

逆に、アウターのまま登り切れることが分かっていれば、後ろのギアに余裕を残してフロントを変速するより、効率的な場合もあります。上のFX3 DISCの例で言えば、残り3枚を残してフロントを変速するのではなく、後ろギアの残りで乗り切ってしまうという方法です。いつも使えるベストな方法ではありませんが、坂がそんなに長くなければ、シンプルな操作で素早く変速が完了するリアで完結するというのもありです。

チェーントラブル

チェーン落ち(チェーンが外れること)を経験したことがある方も多いと思います。よっぽどの悪路を走行中や、酷く調整が狂っている状態でなければ、チェーンが落ちるのは99%変速操作中と言い切れます。自転車の外側(進行方向右側)にチェーンが落ちるのは変速調整が甘い可能性が高く、変速のやり方で改善できることは少ないですが、内側(自転車の中心寄り)に落ちる場合は操作のタイミングを変えることで改善するかもしれません。

考えられるのは、重いギアから軽いギアに変えていく流れの中で、リアを最大ギアまで変速してからフロントの変速をするような場合。アウターxロー(あうたーろー)と呼ばれる一般的に「やらない方が良い」とされる組み合わせ(またの名を「斜めがけ」)からフロントをインナーに落とすのは、チェーン落ちのリスクが高い変速方法です。大ギア同士にチェーンがかかった状態は、最もチェーンが引っ張られた状態ですが、歯数差の大きいフロントの変速では一気にチェーンにたるみが生じ、チェーンが暴れて外れやすくなります。さらに悪いことに、後ろの大ギアは最も自転車の中心寄りにあるため、たるんで暴れているチェーンを自転車の中心に引き寄せようとします。加えて、ギア比を合わせるために2段ほどリアを重くする操作がほぼ同時に行われると、内側に引っ張られる力は弱くなるものの、チェーンのたるみはさらに大きくなります。

そもそも、チェーンやギア周りの摩耗を加速し、摩擦抵抗も体感できるほど機械的ロスが大きいために、「使わない方が良い組み合わせ」としているので、もう少し早いタイミングでフロントの変速を行うようにしましょう。止むを得ずその状態になってしまったら、リアを重くする操作の開始を少し早めにして、フロントの操作を一瞬遅らせるようにすると多少はリスクの軽減になると思います。

アウター x ロー、インナー x トップ

チェーントラブル、機械的ロスとも発生しやすい組み合わせ

機械的ロス

チェーントラブルの項目でも少し書きましたが、機械的ロスとは主に摩擦によるエネルギー損失のことです。ベアリングの回転抵抗も無視はできませんが、一番大きいのはチェーンが稼働する時の摩擦抵抗です。チェーンは1台に100リンク以上の細かい部品で構成されており、それぞれのリンクでエネルギー損失が起きているんです。動かし続ける限り摩擦をゼロにすることは不可能ですが、必要以上に抵抗が発生するような使い方を避けることで、効率よく自転車を走らせることができます。ではロスの少ない走り方とはどういうことでしょう?

チェーンはなるべくまっすぐ流れている状態が一番スムーズで、横方向にこじられるような力が加わると大きな抵抗が発生します。チェーントラブルの項で説明したアウターxローや、その逆のインナーxトップ(前後とも小ギアの組み合わせ)はその最たるものですが、それ以外の組み合わせでも前後ギアを真上から見た位置のズレが大きくなればなるほど抵抗が増えていきます。また、ギアに巻きつくときにチェーンの屈曲が大きくなるのもロスにつながります。インナー・トップは顕著にこの状態になりますのでオススメしません。また、フロントの変速は、それ自体が摩擦の大きな動きです。どのタイミングでフロントを変速すべきか迷ったら、その先の地形に照らして、なるべくチェーンの流れが真っ直ぐになることと、フロントの変速頻度を抑えられることを天秤にかける(あるいは両立する)ことを意識しましょう。

フロントトリプルの使い方

ここまでくれば、前ギアが3枚の場合も、上手な使い方の見当がつきますよね。階段の例にあった「真ん中のギア、本当に必要?」という疑問にもちゃんと答えられるはず。

一応、念のため答え合わせをしておきましょう。3×8のFX2 DISCを例にしています。

もうお分かりですね。センター(前の中ギア)を軸に考えるとこうなります。

フロントの変速頻度は上がりますが、機械的ロスを減らす事を狙ってこんなパターンもありです。

いずれも、フロント1段に対してリアを1段逆方向に動かすだけで、つなぎの良いギア比が得られます。もちろん状況によって、もっとフロント変速のタイミングをずらした方が良い場合もあり得ます。

階段の例だと不要に見えた真ん中のギアですが、無いと困りますよね。美味しいギア比がたくさん得られるから、というのはもちろんですが、センター無しの変速パターンを想像してください。前1段に対して後ろを3段戻す操作になります。変速ショック、タイムラグ(もたつき)、チェーントラブルなど、いろんな面で不利になることが分かりますね。

まとめ

いや〜、長かったですね。お疲れ様でした。

楽しいサイクリング中に「ちょっと変速について教えてくださ〜い」なんてうっかり聞けないですね…いや、そんなことはないです。もっとさらっとライトに教えてくれる人の方が多いはず(私も、普段はここまでやりません)。

考え方がなんとなくでも分かったら、あとは実践あるのみ。上手な人の後ろについて、同じケイデンスで走るようにすると、自然と上手な変速が身につきます。

えっ?それだけ?。早く言ってよ〜。

あ、そうそう、シマノの電動変速にするっていう手もあります。シンクロシフトという機能を使えば、リアの変速操作だけでフロントは勝手にいい位置に変わってくれる優れものです(フロントを変えるとリアが対応してギア比を合わせてくれる機能もあります)。

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